第53話 見栄だとしても

第53話 見栄だとしても

     /茜

 事務所ほどでは無いけど、ここに来る機会も多かった。
 そういうわけもあって、私はここの部屋の合鍵を持っていたりする。
 ……いつだったか由羅が壊したドアを取り替える際に、私がその費用を立て替えてやったことがあって、そのどさくさで合鍵を持っていたりするんだけど。
 真斗のマンションへと入った私は、遠慮無くドアを開いた。
 小さなその部屋は、まだ薄暗い。
 靴があって電気がついていないところをみると、まだ寝ているというわけか。
 まったく私の護衛を買って出ながら、呑気なものだ。
 そのままずかずか入っていくと、流し台の所に大量のカップ麺が重ねておいてある。
 まだ匂いもするし、どうやら昨日の夕食だったらしい。
 ……真斗のやつ、こんなものを食べてるのか。
 自炊すればいいのに……とぶつぶつ思う。
 そのまま寝室の方に行きかけて、思わず足が止まった。
 先客がいたのだ。

「――おまえ」

 先客は床に正座したまま、静かにそこにいた。
 小さくて、精巧な人形のようにも見える。

「そなたか」

 私の気配などとっくに気づいていただろうけど、エクセリアは僅かに顔を動かして、こちらを見つめた。

「……何をやってるんだ」

 ちょっと呆れて、聞いてみる。

「何も」
「何もって」
「私がここにいては、駄目であろうか」
「そんなことはないけれど」

 小さく息を吐いて、エクセリアの隣に座り込む。
 案の定、ベッドでは真斗が眠りこけていた。
 ちらりと横目でエクセリアを見れば、その視線はすでに私には注がれてはいない。
 ……ここにエクセリアがいても、別段不思議ではない。
 真斗にとっては不可欠な存在だし、色々役にも立ってくれる。
 とはいえ、あまりちゃんと話したことの無い相手だった。
 これはいい機会かもしれない……か。

「……どうして真斗を?」

 何を聞こうか迷って、結局最初に聞いてしまったのはそのこと。
 あらゆる意味で、どうして真斗を選んでしまったのか。
 そのことを、尋ねてみた。

「……その問いに答えることは難しい」
「? なぜ」
「はっきりとした理由はあるのだと思う。けれど、私にはそれがわからない。それゆえに」
「ふうん……」

 曖昧に頷いて、ふと思った。

「お前、やっぱりイリスに似ているな」
「――――」

 エクセリアが、こちらを見る。

「私はそう思わないが」
「私がそう思う」

 確かに性格は違うかもしれない。
 イリスに比べれば、エクセリアの方がよほど色々考えて生きているように見える。
 けど、本質的には同じではないかと、そう思うのだ。
 ついでに前々から気になっていたことも尋ねてみることにした。

「イリスを避けているだろう?」
「…………」
「どうしてなんだ?」

 すぐに返事は無かった。

「お前とイリスの接点など知らない。でも、よく似ている。雰囲気も、見た目もな。特にその瞳が」

 エクセリアの真紅の瞳は、イリスのものと全く同じ印象を受ける。
 これほど綺麗で澄んだ瞳を、イリス以外ではエクセリアしか私は知らない。

「だんまりか?」

 やはり、答えは無い。
 よほど、話したくないことらしい。
 しょうがない、か……。

「まあ、いいけれど。話したくないのなら」
「……すまない」

 弁解するエクセリア。
 しかし、意外にもイリスの話題から離れなかった。

「そなたから見て、イリスをどう思う?」
「どう……って?」

 いきなりそんなこと聞かれても、ちょっと困る。

「別に。でも、おかしな奴だとは思う。私なんかに良くしてくれて」

 それは、時々不思議に思うことだった。
 どうしてイリスは、こんなにも私を気にかけてくれるのだろう、と。
 単純に気に入られたといえば、そうなのかもしれないけど。

「危険、とは……思わぬのか?」
「思うぞ」

 即答したら、エクセリアはちょっと驚いた顔になった。ならばどうして、と視線が疑問をぶつけてくる。

「もしかすると、姉さま以上に物騒じゃないかとは思う。実際物騒だし。でも、一人じゃないから」

 あいつには、たくさん頼れる奴が回りにいる。
 凛や裄也、それに姉さまだって恐らくその一人だ。

「あいつらがいる限り、さしあたっては大丈夫だと思う。私の時も、そうだったから」

 私は危うくイリスに殺されかかった過去がある。
 それが出会い。
 あの瞬間に、こんな未来になるなんて誰が想像できただろうか。

「私は、そなたのようには向き合えぬ」
「どうして」
「怖い。そう思うからであろうか……」

 怖いって……。
 イリスを見て、確かに時々怖いと思う時はある、けど。

「正直、こうして真斗を見続けることをも、未だに怖いと思う時がある。決心したはずだというのに。……長年染み付いたものは、容易には消えてはくれぬ」

 私は首を傾げた。

「何の、話なんだ?」
「……いや。忘れて欲しい。時々不安になる。それだけのことだ」
「……私は忘れてもいいけど、真斗はどうなんだ? お前こと、よくわかっているのか?」

 エクセリアは、首を横に振る。

「どう思われているかなど、私は知らぬ。……しかし、知りたいとは……思う」

 最後の台詞に、私は笑みを浮かべた。
 何を考えているのか、話を聞いても今一つのエクセリアだけど、はっきりしていることもある。
 それは間違い無く、真斗に好意を抱いているということだ。
 本人の様子だと、自分自身がそれに気づいているかどうかは怪しいところはあるが。

「ふうん、なるほどな」
「何が、なるほどだ?」
「こっちのことだ。それより――」
「む……ぅ」

 ベッドの上で、真斗が寝返りをうった。
 話し声に、目が覚めてしまったらしい。
 私は声をひそめると、エクセリアへと耳打ちした。

「それより、エクセリア。今日は………」

 真斗が起きる前にと。
 そっとエクセリアへとささやいたのだった。

     /真斗

「むー……」

 何やらうるさくて、目が覚めた。
 ベッドの上でもぞもぞしながら、ぼんやり瞼を開く。
 視界はぼやけていて、初めははっきりしたものは何も映らない。
 しかし時間がたつに従って、やがて像を結んでいく。

「ぬ……」

 変なものが見えた。
 何かがベッドの前に座っている。
 しかも二つ……。

「ふむ……」

 目をこすりながら、ぼやいた。

「……新手の嫌がらせか?」
「馬鹿言うな」

 そうかよ。
 けど目覚ましよりタチの悪そうなやつだぞ。

「……ふあ」

 当然のように欠伸が出る。
 まだ寝ていたいけど、そうもいかなさそうだった。
 二度寝しようものなら、茜が爆発する。

「……あんだよ。朝っぱらから?」

 ……って。

「お前、まさかずっといたのか……?」

 茜の横に、昨夜と変わらぬ場所で座る少女は、間違い無くエクセリアだ。

「……少し」
「え?」
「離れ難かった。理由は私にもわからぬ」
「……真斗。何か不埒なことでもしたんじゃないだろうな……?」

 ジト目で睨んでくる茜が、ちょっと怖い。

「馬鹿言え。俺みたいな健全な青少年が――」
「寝言は寝てから言え」

 一蹴されてしまう。

「……お前、朝一で俺をいじめに来たのか……?」
「ふん。そんなつまらないことはしない。不甲斐無さを指摘しに来ただけだ」
「あん。俺が何だって言うんだよ」
「私の護衛を買って出たくせに、私よりも呑気にいる能天気さは何だ?」

 ……むう。
 ……それはそーかもしれんけど。

「あー、悪かったよ。で、わざわざ護衛されに来たのか?」
「…………。勘違いするな」

 どうしてだか視線を逸らして、茜は言う。

「私は誰かにちょろちょろされるのは嫌いだ。だから、私がお前にくっ付いていてやる。その方が、多少はマシだからな」
「いつもイリスにくっつかれてるだろーが」
「だからお前にまで纏わりつかれたらたまらんと言っているんだ!」

 怒るなよ。短気だな。

「へいへい」

 ま、護衛対象がどっかに逃げていくよりかはましか。
 あまり素直じゃない茜らしいし。

「今日は大学に行くのか?」
「そりゃあ……まあ。こっちに合わせてくれるって言うんだったら、そうしてもいいけど。授業だってあるし」
「じゃあそれでいい。あと、エクセリアも一緒に行くからな」
「ふむ。……へ?」

 反射的に頷いてから、一拍遅れて疑問符が浮かんだ。

「間抜けな顔をするな。私と一緒について行くと言っている。大したことじゃないだろう」
「いや……それは、ええと、その姿で一緒に来るって意味か……?」
「他にどんな意味がある?」

 むう……。
 これまでに、エクセリアも大学へと来たことは何度もある。
 しかし姿は見せず、ふわふわとついてきていたはずだ。
 少なくとも俺は、今の姿のままで普通に校内にいるのを見たことが無い。
 エクセリアの方を見やれば、その表情に変化は無い。
 茜の言葉に少しでも戸惑った様子が無いところを見ると、その気らしい。

「いや……ちょっとまずくないか? いくら大学ってのはオープンで、由羅とかお前みたいな部外者がいたってどうってことないけど、エクセリアはどう見ても姿が子供だし。目立つと思うぞ?」

 容姿も容姿だしな。
 あの能天気な由羅だって、黙って立っていればけっこうな容姿で、目立つのだ。
 エクセリアはそれに全く引けを取らない上に、背格好はイリスよりも小さいときている。
 これで目立たない方がおかしい。
 いやたぶん、普通に町に出ても人目を惹くだろーな……。

「この姿が、不服なのか」

 初めて、エクセリアの顔に表情らしいものが浮かんだ。
 それでもってあまり機嫌の良さそうな声でもない。
 ああ、何かまずい。

「いや、そーゆうわけじゃなくってだな……!」
「いい。わかった」

 俺が思わず弁解するよりも早く、エクセリアはその場から消えてしまった。
 まさに一瞬である。

「…………。お、怒ったかな?」

 恐る恐る、茜に聞いてみると、

「馬鹿」

 返ってきたのは冷たい一言だった。

「いや、待て……俺はたぶん間違ってないぞ。世間体を考えてもだな……!」
「器量の狭い奴だ」

 ぬあ。
 そこまで言うかい!

「きっと嫌われたな」
「いや、もともと好き嫌いではなくてだな……」
「お前みたいなガキんちょに、子供って言われたんだぞ? 普通は怒る」
「む……」
「相手がイリスだったら、殺されていたな」

 そ、そーか……?

「エクセリアで良かったな」

 それは……そうかもしれない。

「でも馬鹿だ」
「く……」
「反省しろ」
「うう……」

 くそう。
 茜の奴、言いたい放題だけど反論できねえ……。
 エクセリアが怒ったことなんか無かったから、油断していたのか俺は……!?

「とにかくとっとと起きて顔でも洗え」
「……そうする」

 どーしてだか分からんのだけど、俺は項垂れてベッドを降りるのだった。


 そして。

「そんじゃ行くか」

 適当に身支度を整えて、ずっと待っていてくれた茜へと声をかける。

「うん」

 茜は見ていたテレビを消して、立ち上がった。

「どーでもいいけどさ。お前ってあっちで学生やってるのか?」

 歳からすると、高校生くらいか。

「やってる」
「へえ。ちゃんと行ってたのか」

 少し驚きだった。
 あんな組織に入っていながら、まっとうな学校とかに行っていたとは。

「でも今は? 休んでるのか」
「そうだ。一応、融通の利く学校を選んでいるし」
「ふうん。そんなのあるのか」

 ふむふむと頷きながら靴を履いて、何気なく玄関のドアを開ける。
 そこで。

「うあっ?」

 ドアを開けた目の前に人がいて、思わずびっくりして声を上げてしまう。
 ……恥ずかしい。

「何をやってるんだ」
「いや人がいて、ちょっとびっ――」

 改めてその人物を見やって、言葉が止まってしまった。
 背後で茜までもが固まっているのが、気配で分かる。
 目の前に立って俺を見返している奴は、よく知ってるような、でも知らないはずの奴だった。
 真紅の瞳に銀の髪。
 その髪は由羅に負けないくらい長く伸ばされている。
 こういう容姿の奴をよく知っているけど……いやまさかそんな。

「エ、エクセリア……?」
「この姿ならば、問題無いと思う」

 うあ。
 やっぱり本人かい!

「ちょっと待て……! だって背が……!?」

 そう。
 エクセリア(らしき人物)は、俺とほとんど変わらない高さに目線がある。
 ってことは、百七十センチはあるってことだ。
 当然、茜よりも黎よりも高い。
 そして雰囲気だけでなく、体格も完全に大人になってしまっている。
 余裕でモデルになれるくらいの。

「背が低ければ、子供に見えるのは当然だ。だから、少し姿を変えてみた。真斗くらいの背丈ならば、大丈夫だと思ったのだが」
「うあ……」

 もはや、そうとしか声が出ない。
 俺の間抜けな対応に、エクセリアは少し心配になったのか、表情を曇らせる。

「……その、こういう姿には慣れていないから、最近の妹の姿を参考にしたのだが、何か失敗しているか……?」

 その辺の事情は分からなかったが、それでも一つだけはっきりしていることがある。
 やはりエクセリアは、さっきの俺の言葉を気にして出ていったということだ。
 茜に散々言われたばかりだし、ここでこれ以上慌てるようなことはできない。俺の誇りにかけても!
 えーい、ここは……!

「いや、完璧だ」

 内心の動揺を抑えつつ、俺はそう言ってやる。
 相手に安心を与えるであろう、最上の表情を作って。

「そ、そうか……。それならば良い」

 ほっとしたように、エクセリアは小さく頷いた。
 ……むう。
 しっかし、こりゃ今まで以上に目立つぞ……。


 落ち着かない。
 いや本当に落ち着かない。
 大学に向かって三人で歩いているだけなのだが、どうにも気分がよろしくないのだ。
 とはいえ悪い、というわけでもない。
 原因は、隣を歩いているエクセリアに他ならないわけだけど。

「……真斗、どうした?」
「い、いや何でも」

 エクセリアに問いかけられても、答えようが無い。
 ビシっと決められたのは、最初だけか……我ながら情けない。
 しっかし化けたもんだ。
 こう大人の姿になっただけで、ここまで見た目の存在感が変わってしまうとは。

「ふん」

 背後からは、茜の不機嫌そうな気配。
 明らかに俺に向いてるし……ううむ。

「エクセリア」

 困ってしまった俺とは対照的に、茜はいつもの調子でエクセリアに問いかけていた。

「参考までに聞いておきたいけど、どういう手品を使ったんだ?」
「手品?」
「だから。どうやったらそんな姿に簡単になれるんだ?」
「さほど、難しいことではない」

 歩きながら、エクセリアは答える。

「自分自身への認識を変えることで、外見程度ならば造作も無く変えられる。内面を変えることは、できないが」
「ふうん……。そういう姿にもなれるのに、どうして普段はあの姿なんだ?」
「恐らく、あれがもっとも自然な姿だからだと思う」
「自然?」

 気になって、俺も口を挟む。

「あくまで推測にすぎないが。恐らく精神の在り方というものが、肉体に反映されるのだろう。精神の成長によって、外見的な肉体もそれに従う。実際、私の妹はもともと普段の私と同じくらいの姿だった。しかしここ千年は、大人に近い外見をとっている。四度魔王を見出していくと共に、成長していったのだろう」
「っていうと、特に外見に手を加えていないのであれば、その外見がそいつの精神に比例してるってことか」

 ってことは、見た目がエクセリアの精神年齢、っていうことなんだろうな。
 とするとずいぶん幼いんだなと思ってしまう。
 雰囲気ではえらく大人びているけど、エクセリアの実際の行動や思考を思い出してみると、そうかもしれない、とも思える。
 そういやこいつ、自分で自分のことを幼いって言っていたこともあったよな。

「なるほどな。……とはいえ」

 ちらりと、俺はエクセリアを盗み見てしまう。
 端整な横顔。
 ……褒め言葉というのは苦手だったけど、とっとと言っておかないと、何だか気が収まらない。
 というわけで言うことにした。

「エクセリア」
「なんだ?」
「お前、美人だよな」
「――――」

 目を見開いて、びっくりするエクセリア。
 後ろで茜も驚いているようだったけど、気にしない気にしない。
 あー、よく分からんけどすっきりした。


 覚悟を決めたとはいえ、案の定エクセリアは目立った。
 校内を歩くだけで、否応無く視線が集まってくる。
 俺自身の視線もその一つになってるもんだから、始末が悪い。
 とりあえず一つ授業を受けたのだが、隣に座らせておいたら、その後ろ姿だけでも目立つらしく、教室の後ろの方では騒がれてしまう有様で。
 あまりに疲れたんで、とっとと脱出することにした。
 早めに学食に落ち着いた俺は、飯をつつきながら溜息をつく。

「はあ。やっぱ学校は疲れる」
「先ほどの授業は、それほどに難解なものだったのか?」
「いや……そうじゃなくてだな……」

 前の席に座った茜は、俺を見て人の悪い笑みなんぞを浮かべてくれるし。

「とりあえず、食ったら学校出るぞ」
「何だと?」

 俺の言葉に、真っ先に反応したのは茜。

「逃げるのか?」

 逃げるって……いったい何なんだ。

「帰りやしねーよ。せっかくエクセリアがその気になって、出歩いてくれてるんだ。俺も最後まで付き合うに決まってるだろ?」
「当然だ」

 多分、エクセリアに何かしら吹き込んだのは茜だろう。
 で、こうやって珍しくも人前に出歩いているのだ。
 けどまあ、悪いこととは思えない。
 むしろいい兆候だ。
 何かと殻にこもりがちのエクセリアが、こうやって直接外を見て回るということは。
 それが分かっていたからこそ、俺も最後まで付き合うつもりでいた。

「ただ、学校だけは勘弁してくれ。知り合いだっているし、もし見られてたら後で説明するのが面倒だしさ」

 これっばかりは由羅で懲りている。
 のほほーんなあいつも、外から見てればそれなりに映ってしまう。
 たまたま遭遇した知り合いに、後からあれは誰だだの、紹介しろだの、連れてこいだのと言われ、断るのにどれほど苦労したことか。
 そんな俺の努力もむなしく、しょっちゅう大学に出没してくれる由羅だけど。
 その上エクセリアまで増えたら、と思うと、頭が痛くなるのである。
 それにしても、エクセリアがこの姿になっても茜は落ち着いてるよな。
 同姓だから、か。
 それとも普段からイリスと一緒に歩き回っているから、もはや視線など気にならないのか。
 イリスだって、エクセリアに負けない容姿だし。
 ……あいつも大人になったら、今以上に目立つんだろーな……恐ろしや。

「――飯食ったら、どっか別の場所に行こう。エクセリアの行きたいところだったら、どこでも行ってやるし」
「私は……特には」
「じゃあ私が決める」

 ちょっと困った顔になるエクセリアに代わり、茜が当然のように口を挟んでくる。

「どーして」
「ほう……? エクセリアの希望は聞いて、私の希望は聞かないというのか。そうか、貴様はいつからそんなに偉くなったんだ……!?」
「こおら! 飯食ってんだ首を絞めるな~っ……ぐえええ」
「ふん。ならば聞け」
「……へいへい」

 ったく、ちょっとした口答えも許さんとは。
 それに相変わらず暴力的だし。
 やっぱり茜がアトラ・ハシースに行こうとしていた時に、止めるべきだったか。
 そうすれば、もうちっとはおしとやかで楓さんみたいになったかもしれんのになあ。
 そんな俺達の様子を、興味深げに見つめるエクセリア。
 真似とかしないでくれよ……頼むから。

「ところで真斗」
「ん?」
「お前、いつもこんなのばかり食べているのか?」

 学食のことらしい。

「悪いかよ」
「悪い」

 即答かい。

「何でだよ。コンビニ弁当食ってるよりは、ずいぶんマシだと思うぞ」

 それに安いし。

「多少は仕方ないと思うが、たまにはしっかり自炊しろ。今日だってお前の部屋に行ったら、大量にインスタントラーメンが転がっていたぞ」
「あ、いやあれは」
「――茜」

 俺が言うよりも早く、エクセリアが口を開いていた。

「あれは……その、私が食べだ。……四つ」
「え?」

 さすがに茜も驚いたらしい。
 そうその通り。
 昨夜のこと、エクセリアは何を思ったのか四杯も食べてくれやがったのだ。
 俺が非常食用として置いてあったやつを、全部。

「お前が……?」
「別に気に入った、というわけではないのだが、その、興味があって」

 何かとり憑かれたかのように食ってたもんな。
 しっかし四杯もよく食べたもんだ。

「馬鹿真斗!」
「なぬ!?」

 なぜかいきなり怒鳴られてしまう。
 しかも身に覚え無し。

「エクセリアにそんな食べ物とも呼べないものを食べさせてどうするんだ!?」

 むう。
 それはそれで、問題発言のような気もするぞ、茜。
 第一、あれはあれでけっこううまいんだぞ。

「……エクセリアがそんなものを食事として認識してしまったら、世の中が終わってしまう。お前の責任だからな」
「ぬ……う。そこまで言うか」
「?」

 意味が分からずきょとん、となるエクセリア。

「当然だ。そしてお前の名は、後世に世界を滅ぼした張本人の悪名として、永遠に残ることになるぞ」

 またひどい言われようだな。
 ていうか世界が滅んじまったら、名前が残るもくそも無いと思うんだけど。

「……まあ、それは冗談だが。でも気に入らない。エクセリアの保護者として、どうもお前は失格なような気がする」
「保護者って、俺がかい」
「似たようなものだろう。よし、今日の夕飯は私が作ろう。笑味しろ、エクセリア」
「わ、わかった」

 茜の気迫に、エクセリアは頷くしかなく。
 そんなわけで、そういうことになったのだった。
 しっかし、保護者、ねえ……?


 次の話 第54話 とある晩餐 >>
 目次に戻る >>

終ノ刻印Ⅲカテゴリの最新記事