第23話 約束、もしくは誓約、あるいは呪いか

        /由羅

「…………っ」

 やられた傷が痛む。
 あの刻印ほどの痛みは無いとはいえ、戦っている最中にこれだけの傷の痛みは堪えてしまう。

 かなりの時間、ジュリィと戦って。
 相手もさすがに無傷とはいかなかったけど、私の方はもっと深刻だった。
 この身体はほとんどの干渉に対して不死だけど、無敵というわけではないから。傷つけられもするし、痛みもする。
 何度か狙撃を受けて、身体はかなりの損傷を受けていた。
 何とかそれから逃れようとしたけど、ジュリィに追われているせいもあって、簡単にはいかず。

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 でもその厄介だった狙撃が、突然無くなってしまった。
 理由は分からないけど、多少の救いにはなった。
 その間に、できる限りの反撃をして。
 あの女にも、それなりの傷を負わすことができた。
 それ以上に私の受けた傷は深かったけど、私ならまだまだいける。
 人間だったらすでに致命傷。でも私は人間じゃない。
 それに何よりもう二度と、あの女にだけは負けたく無かった。

 凍てつく冷気が私の周囲に凝る。
 私は咒法の発動を感じ取って、その場から抜け出す――その刹那、地面を突き破るかのようにして現れる、氷の柱。
 その柱に一瞬ジュリィの姿が消え、現れる。
 氷の柱を打ち砕いて。

 避けられない……っ!
 私は無茶を承知で、素手でそれを受けた。左手を振り下ろされる剣の腹に当てて、何とか弾く。
 思いのほかあっさりと弾くことができた――が、それを見たジュリィの顔には、笑みが浮かぶ。
 焦燥を覚えはしたものの、気にしている暇は無かった。
 ジュリィは攻勢の手を緩めない。
 私にはできない咒法を併用して、息をつかずに攻撃を繰り出してくる。

「……っの!」

 私も全身を使って反撃するが、あっさりとかわされ、時には受けられてしまう。

「そんなもの!」

 私は怒りにまかせて、ジュリィの持つ氷の剣を殴りつけた。

「……っ!」

 その衝撃に、さすがにジュリィも後ろへ下がる。
 へし折るつもりで殴った一撃。
 物凄い音がしたけど、それだけだった。
 さすがに簡単には砕けてはくれない。
 でも絶対に壊してみせる。

 単純な力ならば、千年ドラゴンの持つものは最強だと、昔クリーンセスが言っていた。……その身で体験して。
 私にはそんな暴力しかないけど、そのくらいならば――扱ってみせる。
 でも、私のそんな意図はあっさりと見抜かれていて。
 二度目に殴りつけた時に、その剣はあっさりと宙を舞った。
 衝撃で吹き飛ばされたようにも見えたけど、わざとだったのだ。

「単純すぎるわ」

 そんな、ジュリィの声。
 丸腰になったというのに、まったく動じていない顔。
 私は精一杯の力を込めて拳を振るったせいで、大きな隙ができてしまっていて――その瞬間を逃さずに、ジュリィは私の首へと手を伸ばしていた。

「なに……を――!?」

 お互いが密着してしまえば、力のある私の方が有利だ。
 けれど、私の首を掴んだ手を振り払おうとして、異変に気づく。
 力が入らない……!?

「私がこの二千年以上、どうやって生きていたと思う?」

 私を掴んだまま、見つめてジュリィが尋ねてくる。

「そんな……こと……っ」

 駄目だ――理由は分からないけど、力が入らない。
 この脱力感は、なに……?

「お兄様が生きていた時ならば、わたしはあの人にもっとも近しい者だったということで、その影響を一身に受けて長い時を生きることもできたわ。でもお兄様が亡くなってからは、わたしだってずっとは生きていられはしない。けれど、そんなのは許せなかった」

 憎悪を込めた、言葉。

「わたしは願ったわ……せめてあなたが目覚める時まで生きられることを。あの方はわたしと契約を結んでくれなかったけれど、代わりに別の方法をくれたわ。こうやって、誰かから命を奪うことで、己を保つ方法を」
「…………!」

 じゃあ今、私はこの女に命を――生気を吸われているってこと――!

「ふふ……さすがね。ただの人間だったならば、すぐにも死んでしまうのに、あなたときたら……」

 恍惚とした表情を浮かべて、ジュリィはそんな風に言う。
 認めたくはないけど、私はこんな身体になって――化け物と言われても仕方が無いのかもしれない。
 でもこの女だって、そんなことをして今まで生きてきたというのなら――私と変わらない、化け物だ。
 私は何か言ってやりたかったけど、脱力感のせいで言葉すら出すことはできず。

「さあ……このままあなたが干乾びていく様を見ていてあげるわ。どうせ戻ってしまうのでしょうけど、そんな無様な姿を見ておくのも悪くないものね……?」
「く……あ……っ」

 ――辛い。
 今まで色んな苦痛を与えられてきたけど、こんなのは初めてだ。
 まるで精神的な強姦……!
 でも、それは長くは続かなかった。
 不意に鮮血が舞って、ジュリィの手が首から離れたからだ。
 私は咳き込みながら、大きく後ろに跳ぶ。
 ……追撃は無くて。

「え――」

 ジュリィが見る視線の先を私も追って、自分の眼を疑ってしまう。
 硝煙を上げる銃口を向けて、こちらを見ていたのは。

「悪いな。邪魔するぜ」
「――真斗!?」

        /真斗

 本当に俺の身体はどうかしてしまったらしく。
 多分本気で俺を置いていくつもりくらいの速さで先を行った茜の後を、俺は無難についていくことができた。
 ……屋上から飛び降りても、全くの平気だったし。
 まあ、原因解明は後だ。
 今はこの場だ。

「――真斗!?」

 俺を見て、驚きの声を上げる由羅。

「よお」

 俺は軽く答えたが、実際驚いていたのは俺の方だった。
 ……あいつの姿は、それこそ酷い状態だった。
 身体中を赤く染めて、夜だというのにボロボロだということが分かる様子。
 普通の人間だったら立っていることだってできないはずだ。

「……本当に化け物だな。私の銃撃を何発かまともに受けているはずなのに」

 俺の横で、茜が呆れたように洩らした。
 それには応えず、俺は由羅へと口を開く。

「お前、無事か?」
「そんな、の――」
「桐生くん」

 口を開きかけた由羅を遮るように、最遠寺が声を滑り込ませる。

「何の真似かしら……これは」

 銃弾がかすった手を舐めながら、最遠寺は軽く俺を睨んだ。
 銃弾は、明らかに最遠寺に向けて発砲されていた。決して狙いが逸れたわけでないと分かっているからこそ、あいつは俺を詰問してくる。

「悪いな。わざとかすめるように撃ったんだ。何かやばそうだったからな」

 由羅が、だ。
 何をしていたのかは分からないが、どう見てもまともな状況には見えなかった。

「来てくれたのは嬉しいわ。けれど……理由を説明してくれるかしら」

 邪魔をした理由、か。

「そいつと、話がしたい。茜にはその間、待ってくれるように頼んだ。最遠寺も、一旦下がって欲しい」
「何を……馬鹿なことを」

 俺の言葉を、最遠寺は一笑する。

「ここまできて、いったい何を話すというの? あなたを、殺そうとした相手と」
「忘れてた記憶……だと思うんだけど、それを思い出したんだよ」

 ぴくり、と最遠寺と由羅は同じように反応した。
 由羅は、また哀しげな顔になって俯いてしまったが。
 ……そんな顔もできるから、俺はお前のことを何とかしてやりたいって、そんな風に思ってしまうんだろうな。

「それなら――」
「ああ。お前の言う通り、俺はそいつに手酷くやられてたよ。ここ最近の殺しもそいつだ。本人が認めてたからな」

 由羅はこちらを見ない。
 ただただ、視線を逸らしている。

「でもな……俺はどうやら由羅のことを、まだ助けてやりたいって思ってるらしくてな」

 ぽんぽん、と俺は左手の甲を叩いて言った。
 え、と微かな驚きの声を上げる由羅。
 そうして初めて……ようやく俺の方を見る。

「なんで……? あの時のこと、思い出したんでしょ……? 私、あなたのことを――」
「許してやるって言ってるんだよ」

 その一言に、由羅は呆然としてこちらを見返した。
 同じように、最遠寺も驚きを隠せない様子だった。信じられないといった、顔。

「私、私――真斗のこと、こ、殺したのよ!? それなのに――」
「別にお前は嘘なんかついてなかったってわけだ。俺のことを殺したとは言いたくなさそうだったけど、刻印のことは俺がしたって最初から言ってたしな……。今さらだろ、そんなことは」
「そんな……」
「それにな――俺は別に怒っていないわけじゃないんだぜ?」

 ただあの時の怒りが、今も同じように湧いてこないだけ。

「だから、条件付きだ。お前が今までにやってきたこと……全部水に流すことは不可能だろうけど、もうこれから絶対にしないって言うんだったら、少なくとも俺は許してやる。約束だって守ってやるよ」
「あ……」

 酷く混乱したように、由羅は言葉を失ったようだった。
 俺はただ、あいつの返事を聞くために、黙って待ち続ける。

「ふ……ふふ……」

 押し殺したような笑い声が聞こえたのは、すぐのことだった。

「何を馬鹿なことを……。そんなことは絶対に不可能だわ」

 くすくすと嘲笑しながら、最遠寺が言う。

「それは千年ドラゴンなのよ? 自分よりも高いものに依存しなければ、己を保てはしなという欠陥品なのよ。あなたが何かを殺さずにはいられないのは、低次のものを認めることができない精神的欠陥を抱えているから。お兄様はもういない――そんなこの世界で、あなたを認めてくれる存在などいないのよ!」

 最後は声を張り上げるようにして。
 俺は事情は知らない。
 しかしそれでも、あの夜の由羅が常軌を逸していたのは俺にも納得できる。
 あまりにも自然に……殺しを愉しんでいた姿。

「けどな……この数日間は、あいつは誰も殺していない。我侭ではあったけど、充分普通だったぜ。俺はな、それを一生続けられるかって聞いてるんだよ。もし何か他にも困ってることがあるんだったら、まあついでだから相談には乗ってやるさ」
「そんな愚かなこと――」
「……やる!」

 最遠寺の嘲笑を遮って。

「私……やる……やるから! また一緒にいてくれるんだったら……私もう――誰も殺したりなんかしない!」
「ユラ――!?」
「私――真斗がいてくれればきっとできる。だってその方が――」
「…………そう」

 静かに。
 最遠寺は頷く。

「できるのね?」
「できるもの!」
「ふうん……そう」

 何の感慨も感じさせない声音でつぶやくと、最遠寺はそっとこちらに歩み寄ってくる。

「おい……?」

 俺は訝しげに声をかけたが、最遠寺は答えることなく。
 その距離は、不必要なまでに近づいてしまっていて。

「では、桐生くんは用済みね」

 そう言うと、最遠寺は不意に顔を近づけてきた。
 軽く背伸びをして、俺の口を、自分のそれで塞ぐ。

「!」

 思わず離れようとした。
 だけど身体は動かなくて。
 そのまま、最遠寺は自分の唇で、俺の口を塞ぎ続ける。
 近くにいた茜の、らしくないような動揺した気配が伝わってきて。
 だがそれ以上に――

「なに――なんなのやめてよ!?」

 悲鳴のような、由羅の声が上がった。
 その声に満足したように、最遠寺は冷笑を浮かべて由羅の方を振り返る。

「どうしたの?」

 意地悪く、最遠寺は聞き返す。
 突然のことに半ば真っ白になっていた俺は、何か言おうとして――本当に真っ白になってしまった。
 膝の力が抜けて、がくりと崩れ落ちる。

「な――」

 全身に、まるで力が入らない。

「真斗っ!」

 茜と由羅が同時に声を上げ、駆け寄ってくる。
 しかし傍まで来ることができたのは、茜だけだった。
 由羅は、最遠寺に阻まれて立ち尽くす。

「何を――」

 言いかけた由羅の顔が、ハッとなった。
 何かに、気づいたように。

「まさか……真斗の、を……!?」
「察しがいいわね」
「殺す気なの!?」

 一体何の話なのか、俺には分からない。
 だけどあいつには分かったのか、見たことがないほどに激昂していた。

「言ったじゃないの」

 そんな由羅のことなど気にする風も無く、落ちていた剣を拾い上げながら、最遠寺は言う。

「用済み、って」
「どういう意味よ!?」
「あなたはもう誰も殺さないのでしょう? 無抵抗で、わたしに嬲られてくれるのでしょう? それならば、もう桐生くんは必要ないわ。つまり用済み――そういうことよ?」
「――――」

 絶句する、由羅。
 同時に、俺を支えていた茜が、何か言おうと口を開きかける。
 しかしそれを、俺は止めた。

「真斗……!?」
「…………」

 俺は答えずに、最遠寺と由羅を見続ける。

「当事者なのだから、当然知っているでしょ? 彼を殺したのは、あなた。彼は死んでいるの」
「何を……? だって、真斗は生きてて、ジュリィが助けたって……」
「そうね。助力はしたわ。でもだからといって、生きているわけじゃないわ。わたしは存在維持の、助力をしているに過ぎないのだから」
「う、あ……」
「エクセリア様を覚えている? ユラ。桐生くんの存在は、あの方によって維持されているわ。彼の場合、肉体の方もそのまま再利用しているけれど。それを維持する生気は、わたしがあげたのよ。だから、比較的安定していられるの。でもそれを奪ってしまえば、ね?」

 簡単に消すことができると、最遠寺はあっさりと言った。

「そんな、そんな――うそ」
「嘘ではないわ。現に……ほら」

 最遠寺が、こっちを見る。
 由羅も。
 しかし俺は、答えられるだけの力も残っていない。
 息をするだけで、精一杯なのだから。

「じゃあなに……!? 私が真斗との約束を守るのだったら、あなが真斗を殺すって言うの!?」
「勘違いね。殺したのはあなた。けれど――そうね。そうとってもらっても構わないわ」
「ジュリィ……っ!」

 違う、と思った。
 いや、違ってはいないのかもしれない。
 でもこれは。
 最遠寺の、由羅への挑発だ。

「どうしてそんなひどいこと……!?」
「ひどい?」

 その言葉に、最遠寺は逆に睨み返す。

「わたしから大切な人を奪ったあなたが、よく言うわ。――そうね。ここで、あなたの唯一の頼りである桐生くんを殺したら、少しは痛みがわかるかもね。つまらないけど、多少はいい余興になるわ」

 そう言って。
 何の予備動作も無く、最遠寺は手にしていた剣を、俺めがけて振り下ろす。

「黎!?」

 俺自身に避けることはできなかったが、茜のおかげで助かった。
 さすがに我慢できなくなったのか、茜も叫ぶ。

「何の真似だ!?」
「言った通りよ」

 素っ気無く答えて、再び剣を振りかぶる。

「ジュリィっ!!」

 叫んで、それを止めようと由羅が飛び掛った。
 それこそがむしゃらに、最遠寺めがけて充分な殺傷力を秘めたその爪を、振り下ろす。
 びしゃり、と。
 鮮血が飛び散る。
 裂けた衣服と共に、最遠寺の血が。

「――――殺してやる!」
 何とか倒れずに踏みとどまった最遠寺目掛けて、由羅は構わずに追い討ちをかけた。

「やめろ由羅――!」

 俺は出ないはずの声で叫んで。
 だが結局、それは届くこと無く。
 あいつの手は、最遠寺を貫く。
 苦痛に、顔を歪める最遠寺は。
 なぜだか笑っていた。

「終わりよ……」

 自分を腹に刺さった由羅の手を、しっかりと掴んで――最遠寺は言う。

「汚れるがいいわ……!」
「! あ、う……!?」

 瞬間、由羅は悲鳴を上げて仰け反った。
 最遠寺が引き抜くあいつの手が、最遠寺以外の血に、新たに染まっていく。
 中和されていたはずの刻印が、再び効力を取り戻したのだ。

「ち……っ」

 こんなにあっさりと、中和が解けてしまうわけがない。恐らく、あいつが最遠寺と戦っている最中に、所長が張った結界を斬られでもしたのだろう。

「もう中和することも許さないわ……! わたしの血に塗れて、呪われるがいい……!」
「い、やあああああああっ!!」

 もうただ闇雲に。
 その激痛に、あいつは力を暴走させる。
 そんなあいつの近くにいた最遠寺が、ただで済むわけも無かった。

「…………っ!」

 とんでもない力で弾き飛ばされ、アスファルトに叩き付けられる。
 鮮血が飛び散る中、由羅はその身体を引き裂こうとして。

 だが。

「な……?」

 その突然の光景に、俺は息を呑む。
 吹き飛ばされる、由羅。
 最遠寺へと迫るその寸前に、何かが由羅の身体を刺し貫いたのだ。
 胸に大きな裂傷を負って、鮮血を散らして――ずっと後ろに落ちる、由羅。
 不意に割って入った誰かが、最遠寺を助けるようにして、由羅を攻撃したのだ。
 あいつの胸にできた裂傷の先には、太い短剣が深々と薙ぐように突き刺さっていた。

「どけ……っ!」

 俺は茜を振り解いて立ち上がろうとしたが、叶わなかった。
 足に力が入らず、崩れ落ちる。

「く、そ……!」
「動くな馬鹿!」

 茜に叱責されるが、聞いてなどいられない。
 しかし結局身体は動かず、視線をさまよわせることしかできなかったが。

「あ……うぁあ……っ!」

 更なる痛みに、由羅はその場で悶え苦しむ。
 暴れるたびに、尋常ではない出血が続いていく。
 そんな由羅目掛けて、不意に現れたその男は、まったく同じ短剣を投げつける。
 だがそれは、由羅に届く前に弾かれてしまった。
 もちろん由羅が防いだわけじゃない。そんなことができる余裕など、あいつにはもう無い。
 防いだのは、あいつの前に現れていた黒い人影で。

「なん、だ……?」

 また状況が変わった。
 この場に、突然二人の男が現れたのだ。
 一人は最遠寺を庇い、由羅を攻撃して。
 もう一人はそれを防いで。

「これはこれは」

 そのうちの一人が、少々驚いたように相手を見返していた。

「まさか、こんな所にあなたがいるとは……」
「――この娘はもらい受ける」

 黒い服に身を包んだ男は、ただそれだけを口にすると、未だ苦しむ由羅を抱き上げる。

「それは困りますね。せっかくの機会です。簡単に譲り渡すわけにはいきません」
「ならば奪い返すがいい」

 それだけ言うと、男はあっさりとその場から離脱した。
 由羅を、抱きかかえたまま。

「……やれやれ」

 もう一人の男は、そんな相手をただ見送った。
 追いかけるつもりなど、全く無かったように。

「まさか、彼女らを放っていくわけにもいきませんからね。仕方ありませんか」

 そうつぶやいて振り返る男は。
 俺の、知っている奴だった……。

        /アルティージェ

「……ふふ」

 思わず、微笑がこぼれた。
 なかなかに、面白い見せ物。
 一幕は終わったけれど、まだまだこれからなのだ。
 それに、わたしが求めていた者のうちの一人に……ようやく会うことができる。
 彼女は他の二人と違って、まだ会ったことがない。
 だから、楽しみだった。

 ――自分と、同じ存在。

 ようやくそんなものが、手に入るかもしれないのだから。

「早く……連れ帰って、ドゥーク。待ち遠しいわ」

 嬉しくて。
 わたしはそう命令した。


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