第15話 九曜茜

「そうだ」

 ぶす、として頷く少女。
 やっぱりそうか……!
 どうやら俺がすぐに思い出さなかったことが、お気に召さなかったらしい。
 だけどこいつと会わなくなってから、確か六年か七年はたっているはずだ。見た目だってあれからずいぶん成長している。しかもこいつの実家はここじゃないはずだし……?

「お前――何やってるんだ? ここで」

 俺は素直に疑問を口にした。

「それを聞きたいのは私の方だ。お前こそ、こんな所で何をやってるんだ?」

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 ……二人して同じ疑問をぶつけるのって、何やら不毛だ。
 ちなみにこいつの名前は九曜茜。俺がずっと咒法やら何やらの知識と技術を学んできた九曜家の、娘である。
 こいつは現当主の次女で、長女もいるのだが、そっちの方と俺とはほとんど面識は無い。

 茜は七年くらい前に九曜家を飛び出して――つまるところ家出して、海外に行っていたはずだ。その間、俺はこいつと一度も会っていない。
 俺達が話し始めると、最遠寺やら所長やら上田さんやらは、興味ありげに聞き耳を立てつつも、とりあえず口を挟まずいる。
 俺は構わずに、茜の質問に答えた。

「……俺は下宿してるんだよ、京都に。大学行ってるからな。でもって俺がこんなとこに出入りしてるのは、仕事だ。お前も知ってるだろ? 一応級認定受けた奴は一人前ってことで、この手の仕事が回ってくるってことくらい」

 とりあえず、俺から簡単に説明する。

「そうか。一応柴城さんにお前のことは聞いている」

 事情は知っているが、あえて直接聞いたってわけか。

「……結局、ずっと九曜の家にいたのか?」
「まあな。お前はどーしてたんだ? あれから音沙汰無しだったけど」
「私は……アトラ・ハシースに入ったんだ」
「アトラ・ハシース?」

 その名は俺でも知っていた。
 対異端組織としては最も有名で、確か欧州に本拠がある組織の名だ。

 日本にある組織などに比べ、異端というものに対しての敵意が強く、どんな事情であれ異端ならば容赦しないという所である。その分、質は高く、高度な咒法・技術を使いこなす者が多いという。異端には最も恐れられている組織だ。

 そのアトラ・ハシースだが、日本にはあまり影響力を持ってはいないはずである。
 いくつか理由はあるが、まず日本にはこの国独自の組織があったこと。そして第二に、アトラ・ハシースが隠れ蓑に利用してきた宗教が、この国ではさほど普及しなかったことが原因だ。

 そういった宗教は誰にも知られてはいるが、ここは神様やら仏様やらがたくさんいて、しかもそのことを気にしないある意味無神論な国である。宗教の持つ力を利用してどうにかするということは、あまりできない場所なのだ。
 もちろん、比較的、という意味でだが。

「よく入れたもんだな。あそこって、なかなか厳しいんだろう?」

 よくは知らないが、とりあえず聞いてみる。

「その方が、自分には都合は良かったから」
「ふうん……そんなもんか」

 茜が家出したのは、確か姉の存在のせいだったはずだ。
 強くなろうとしたのも、そのため。
 俺がガキの頃からこいつは充分強かったのだが、本人にするととても満足できるものではなかったらしい。あんまり出来の良い姉を持つと、妹は苦労をするという典型のようだった。

「……で? それはともかくどうしてここに?」

 一番の疑問をぶつけてみる。

「昨日、お前を見たんだ」
「昨日? ……昨日っていつ頃」
「夜だ。深夜。そっちの女と一緒にいるのをな」

 ……そっちの女って。

「最遠寺と……? あ」

 そこで、何となく分かってしまった。
 昨日の、夜。
 最遠寺に力試しをされる直前まで感じていた、気配。

「お前――だったのか、あれ」
「うん」
「うんって……。何やってたんだ?」
「お前と同じ目的だろう」

 同じって。

「じゃあ何か? お前もここ最近の殺人犯でも追ってるって言うのか?」

 また何で、と思う。
 その殺人犯が異端者であることは、恐らく間違いない。
 茜は異端にとっての天敵である、アトラ・ハシース。追う理由は分からないでもないが、わざわざ外国からこの国まで来るというのは、どういうことなのか。

「向こうで事件を起こした異端者を追っているんだ。しばらく消息が掴めなかったんだけど、この国に来たらしいことが分かって……理由は良く分からないが」
「おい、所長?」

 聞いたか、と俺は所長の方を振り返る。

「ああ、一応聞いてはいる」

 頷く所長。
 と、ちょうど上田さんがコーヒーを運んできてくれる。

「よくわかんねえけど、俺らの追ってる奴って、かなりやばい奴なんじゃないのか?」

 アトラ・ハシースほどの者が、わざわざ国外にまで追手を差し向けるほどの相手。
 何ていうか、俺の手に負える奴なのかと思ってしまう。

「――そうでしょうね」

 口を挟んだのは、今まで黙っていた最遠寺。

「アトラ・ハシースですら、もう三人ほど返り討ちにされているでしょう」
「……よく知っているな」

 ちらりと一瞥して、茜が言う。
 どうやら事実らしい。

「お前は?」
「わたしは最遠寺黎。九曜家のあなたなら、最遠寺の名くらいは知っているでしょう?」

 簡単な自己紹介に、納得したように茜は頷く。

「なるほど。最遠寺の家の者か。でもアトラ・ハシースとこの国との繋がりは薄い。唯一あるといえるのが、私の実家なんだが……」
「そうね。けれどわたしたちも、何もしていないわけではないわ。世界はもう、ずいぶんと狭くなったのだから」

 確かに最遠寺の言うように、例え今まで繋がりが無かったとしても、お互いの存在を知っている以上、いくらでも繋がりを持つようにすることはできるということか。
 と、所長が口を挟む。

「おいおい黎君。返り討ちにされているって、そんな話、おれは聞いてないぞ?」
「……ごめんなさい。けれど、まだ今回の殺人犯と同一という確証がなかったから」

 だから今まで触れなかったと、最遠寺は言う。

「ふむ。まあ今わかっただけでもいいがな。しかし……となると、おれが思っていた以上に物騒な相手ということになるな」
「……だな」

 俺も頷く。
 アトラ・ハシースを三人も返り討ちにできる力を持った奴、ねえ……。まともな相手じゃないな、それ。

「しっかしさ。そんなやばい相手なのにお前が派遣されるようになるなんて、ずいぶん認められているってことじゃないか?」

 茜がここまで派遣されてきたのは、こいつが日本人ということもあるかも知れないが、それだけでそんなやばい奴を追わせたりはしないだろう。

「別に……。そんなことよりも真斗。今回のことからは手を引いた方がいい」

 いきなり、茜はそんなことを言った。

「手を引けって、お前」
「私がここに来たのは、お前を見てもしかしてと思ったからなんだ。昨日私は柴城さんに会って、この町でのことを聞いた。その時は知らなかったけど、後でお前を見て……もしかして柴城さんの所に関係があるんじゃないかと思った。お前は九曜にいた。京都市で九曜の家と関係があるのは、計都神社か柴城さんのところくらいだからな」

 ……なるほど。

「で、わざわざ警告に来てくれたってわけか」
「そうだ」

 あっさりと、茜は頷いた。

「正直に言って、危険すぎる。相手はまともな精神じゃないだろうし、たぶん、力も尋常ではない。妖魔か魔族かそれはわからないけれど、間違いなく危険な人外のものだ」
「俺には手に負えない……ってことか」
「聞いたはずだぞ? そいつはアトラ・ハシースの者をすでに三人も殺しているんだ。殉職した彼らより私のランクが上だとはいっても、絶対大丈夫というわけじゃない。もしかすると私だって返り討ちに合うかもしれないんだから」

 それだけ相手のことは得体が知れず、危険であると、茜は言った。

「下手をすれば、お前も殺されるぞ?」

 ……こいつがこっちを心配して言ってくれていることが分かって、俺は小さく頷く。

「そっか。なるほどな」

 まあ俺自身、そんな危惧を持ちはしたのだが。
「けどさ、俺のことはいいとしても、お前は大丈夫なのか? 仮に俺が手を引いたあと、お前の死体でも見つかりでもしてみろ。目覚めが悪いったらねーだろ」
「その時は私は死んでいるから、私は気にならないぞ?」

 おい。

「俺が気になるって言ってるんだが」
「冗談だ」

 ……もうちょっと気の利いた冗談言えって。

「でも心配しなくていい。私はたぶん、真斗より強いから」

 ……む。
 いやまあ、それはそーだろうけど。
 でも何か傷つくぞ、その言い方って。

「お前さあ、もうちょっと気を遣えよな。俺が落ちこぼれでけっこう悩んで頑張ってたの、知ってるだろ?」
「私だってそうだ。何を今さら」
「レベルが違うだろうが。ったく……」

 確かにこいつは昔からこんな感じで遠慮が無かったけどさ。

「っていうか、そういう話じゃなくて、その相手がお前より強かったら、やっぱりお前もやばいだろうが」
「……うん。そうだな」

 そうだなって、おい。

「でも大丈夫だ。私も駄目だと思ったら、ジョーカーを使うから。……あんまり頼りたくはないけれど、死ぬよりはいい。私もまだ死にたくはないから」

 ……ジョーカー?

「何か切り札でもあるのか?」
「……たぶん」
「たぶんって、何なんだよそりゃ?」
「だからジョーカー。死神。この町にはそれがあるんだ。運良くか悪くはわからないけど。あれならば絶対に何とかなると思う」
「よくわからねーけど……まあ、お前がそんなに自信を持っていうんだから、大丈夫なんだろうな。安心しとく」

 きっと茜の協力者か何かなんだろうけど、よほど強いってことか。茜がここでま言い切るんだから。

「うん」

 こくりと、茜は頷く。

「それと、今話に出た死神のことだけど」

 何か思い出したように言う。

「死神って、ジョーカーのことか?」
「そう。もしお前がこれから関わるかもしれない異端の者の中で、彼女だけには関わるな。これは柴城さんにも言っておく」
「ほう」
「なんだ? その切り札って……異端者なのか?」

 珍しい話だ。
 異端のことは何から何まで毛嫌いしているアトラ・ハシースに、異端の協力者がいるなんて。
 まああり得ないことでもないか。毒には毒をもって……なんて言葉がある世界だし。
 しかも彼女ってことは、女ってことか。

「……それはよくわからない」

 俺の質問に、難しい顔つきになって、茜は言う。

「でもお前が仕事で関わることがあるとしたら、それは多分異端としてだと思う。あれは、その……何だか良くわからないんだ。何考えてるか今ひとつわからないし、怖いんだけど、けっこう優しいし……」

 茜自身、何やら困っているような様子だった。
 あさっての方向を見ながら、非常に喋りにくそうに話している。
 ……何か、気になるぞ。その切り札って奴。

「ともかく、関わるんじゃない」
「んなこと言ったって、そいつが誰だって事前に知らない以上、どこでどう関わるかなんてわかんねーだろ?」
「それはそうだけど……。たぶん、向こうから問題は起こさないとは思う……裄也がいるから。でもお前たちが馬鹿な関わり方をしたら、容赦無く始末されるぞ。危険度で言ったら、今回の犯人よりずっと危険なんだ」
「……そんな物騒な奴に、お前んとこの組織はよくパイプを持てたよな」
「違う。個人的な知り合いなんだ。アトラ・ハシースはあいつに恨まれているから、そうであるというだけで殺されかねない。私だって……」

 何やら思い出したのか、顔をしかめて口をつぐんでしまう茜。
 どうやら相当ヤバイ奴らしい。
 何かよく分からんけど。

「とにかく、もしどうしても会いにいかなければならなくなったら、玄関から会いに行け。そうしたら話くらいは聞いてくれると思う」
「はあ。……だとさ、所長」
「茜君が言うのなら、気をつけないとな」
「変な事件を拾ってこないでくれよ。……って、今回もう、拾ってきちまったみたいだけどな。で、どーすりゃいいんだ? 俺」
「私はやめろと言った」

 にべも無い、茜。

「う~ん……」

 唸る所長。

「大丈夫よ、桐生くん」

 茜とは反対意見を、最遠寺は口にした。

「あなた一人ならば確かに危ないけれど、わたしがいるのだから」

 ……そーいやこいつ、昨日パートナー宣言してったっけか。

「お前がどれだけできるのかは知らないが、真斗は別だろう。あれから努力をしたのかもしれないが、それでもたかが知れている。危険には変わりない」

 うーん……自覚しているとはいえ、ちょっぴり傷つくぞ、茜。そうはっきりと弱いと断言されると。

「過小評価のし過ぎよ。桐生くんならば役に立ってくれるわ」
「それならいいけれど……」

 不満な表情の、茜。
 俺は困ったように、所長を見た。

「そうだなあ……。まあお前を外すことはできる。バイトだし、断る権利もある。後の仕事は黎君に引き継いでもらうことになるがな。本当は、お前に黎君をサポートして欲しかったんだが」
「……柴城さん。私はあなたもこの件から手を引いた方がいいと思う」

 茜が言う。

「相手は本当に、危険なんだ」
「そいつは難しいな」

 渋い顔で、所長は頭を横に振る。

「黎君が派遣されてきたことからも分かるように、今回のことには上の連中も積極的に動いている。まだ確認の段階だというのにな」
「…………」
「……そういうわけでな、茜君。おれも立場が色々と微妙なんだ。九曜の君の意見は聞いておきたいところだけど、かといって最遠寺の方を無視するわけにはいかない。おれは今じゃ関西で動いてるけど、元々はあっちの出身だからな」

 まあ所長としても、立場的に苦しいところだろうな。
 その辺りに関しては、俺は落ちこぼれってこともあって、どうでもいいといえばどうでもいい。けっこう他人事なのである。

「では、共同作業というのはどうかしら」
「共同?」

 最遠寺の言葉に、茜が見返す。

「そう。わたしたちは、今回の件を見過ごすわけにはいかないわ。そこであなたと協力し合うことができるのなら、こちらとしても好都合。アトラ・ハシースのあなたの戦力は頼りになるし、あなたとしてもこちらの情報は必要なはず。昨日も、情報を得るために柴城さんに会っていたようだから」

 なるほどな。
 確かにお互い、協力した方が好都合か。
 ……って、ちょっと待て。

「結局俺はどーなるんだ?」
「お前の友達も心配してるからな。黎君のサポートにいて欲しかったが、代わりに茜君がいてくれればまあ問題無い。聞くところによると、茜君もこの町のことは知っていて土地鑑はあるようだから」
「わたしは手伝って欲しいけれど」
「私は反対だ」

 むう……。
 まったく困ったもんだ。
「……俺としては、乗りかかった船だ。できるなら最後までやりたい」
 俺の言葉に、最遠寺がわずかに笑みを見せる。
 一方茜の方は、不機嫌そうな顔になる。

「……私は心配して言ってるんだぞ?」
「わかってるよ。感謝してる。ずっと会ってなかったのに、昨日ちょっと見かけただけで、俺のことを心配して来てくれたんだろ」

 感謝しないわけがない。

「わかってない。わかってるならやめろ」
「悪いけどな」

 そう言う俺を見て、茜はため息一つ。

「馬鹿には何を言っても無駄だな。……とりえず、足手まといにはなるんじゃないぞ」

 む。
 くそう……反論したいが、事実なのだ。
 俺と茜では、茜の方が断然強いはず。
 分かってはいるが……むかつくぞ、くそう。

「ふむ。そういうことなら今後はよろしく頼むよ」

 妥協案がまとまったことに、少しホッとしたように所長は言った。

「仕方無いから……。そちらにも仕事はあると思うし。それに私は九曜の家を出た身だから、あまり九曜のことは気にしなくていい」
「いや、そうもいかないさ。ここには君のお姉さんが住んでいるだろう?」

 その言葉に、ぴくり、と表情が固まる茜。

「お姉さん?」

 最遠寺も首を傾げて茜を見る。

「実はおれもこの二年近くの間に、たまに世話になっていてね。その妹さんを邪険にしたら、やっぱりお姉さんに悪いだろう」
「あ、その、ええと……」

 茜にしては珍しいくらい、動揺した様子になる。
 ほほう。
 どうやらこいつ、まだ姉のことが苦手なようである。
 確か茜が家を飛び出したのも、その辺りが理由じゃなかったっけか。

「あの……もしかして私のこと、姉さまに……?」
「いや。別に言ってなんかいないが」
「だったら……その、言わないでおいて欲しい。私が今、この町にいるってことは……。できればずっと……」
「それは構わないが……。今喧嘩でも?」

 少し怪訝そうな顔になる所長。
 それはそうだろう。こいつの姉といえば、九曜家の長女ということもあって相当な実力の持ち主だ。この茜がコンプレックスを覚えて家出してしまうほどの、である。妹が頼めば、普通だったら協力してくれる、得難い人材だというのに。
 とはいえ茜の姉がこの町に住んでるなんてことは、俺も初耳だけど。

「――こいつは万年姉妹喧嘩してるよ。たぶん、ずっと連敗中だろうけど」
「真斗っ!!」

 ぐああ、と烈火のごとく怒る茜。
 ふん、さっき俺にケチつけてくれたお礼だ。素直に受け取っておけ。

「殺すぞ!?」

 ……ちょっと効き過ぎたかもしれない。
 俺の胸倉を掴んで怒涛の勢いでシェイクする茜をぶれる視界で見ながら、俺はちと後悔する。
 やはりこいつにとってのタブーは姉のことか。
 ったく今も昔も代わってねーなあ……。
 俺が茜から開放されたのは、それから数分後のことだったとは思うが、よく覚えてはいない。俺は目を回しておええと、気分の悪さに床で這いつくばっていた。

「……っの、暴力女!」
「ふん! 死んでろ」

 くそ……こいつ女のクセして、めっぽう腕力あるし……。修練のせいか、常に咒を自分にかけて強化しているのかは知らないが。

「ふむ……実は意外と弱かったんだな、お前」

 床を覗き込むようにして、何とも不愉快な台詞を送ってくる所長。

「うっせえ……こんな規格外と一緒にすんな」

 俺はよろよろとしながらも、何とか椅子へと座り込む。
 そこで真横また一発蹴りが入り、ふらふらの俺は為すすべ無くもう一度床に沈んだ。

「てめえ、何しやがる……!?」
「……あまり下らないことを言っていると、本当に殺すぞ……?」

 ――お。
 何か今感じたぞ。
 こええなあ……たぶんこれが、『殺気』ってやつだ。

「ふふ、二人とも仲が良いのね」

 面白そうに、最遠寺が洩らす。

「誰がこんな暴力女!」
「黎、不愉快なことは言って欲しくない」

 二人そろって否定の言葉。
 俺達は顔を見合わせ、ふんっとそっぽを向いた。

「……それで、結局俺たちはどういう形でお前に協力すればいい? ――ああ、真面目な話なんだから、いちいち睨み通すな鬱陶しい」

 そう言って手を振ると、茜はぷい、とまたそっぽを向く。
 この少し拗ねたような感じは、まあ歳相応だな。

「……お前たちは、今までどうやっていたんだ?」

 最遠寺と俺に向かって、茜が尋ねてくる。

「大したことはまだだ。とりあえず、俺の仕事は現場を押さえて相手を確認することまでだからな。事件の起こりそうな深夜に、町を見回っている」
「わたしは来たばかりだから、まだ何もしていないわ。でも今日から、桐生くんと同じように見回るつもりよ」

 今までの現場付近を中心に見回るといっても、範囲は決して狭くない。効率が悪いが、しかしそれ以外に有効な方法があるわけでもないのだ。
 話を聞いて、茜は小さく頷いた。

「そうか。確かに遭遇する可能性は決して高くないが、地道に捜していくことも必要だろう。わかった。私もそれに加わる。相互に連絡を取り合いながらすれば、一人、二人でするよりも、可能性は高まるはずだ」
「よし。じゃあ時間を決めて、夜になったら集合して、それから始めよう。最遠寺もそれでいいか?」
「ええ。問題ないわ」

 こくりと、最遠寺は頷く。
 これでとりあえずはまとまったというところか。
 茜が突然現れたのには驚いたけど、協力者としてなら心強い。仕事も俺一人がやるよりも、ずっと効率よくできるだろう。
 話が一段落しところで、あることを茜に聞くつもりだった。
 実を言うと、茜が現れたことは俺達の仕事の協力者になること以上に、嬉しいことでもあったのだ。
 天佑といえば、まあそんな感じだ。
 つまりあいつ――由羅のこと。

「茜、今時間あるか?」
「……? 何かあるのか?」

 訝しげに、茜はこっちを見る。

「ちょっと相談したい――ていうか、聞きたいことがあってさ」
「なんだ?」

 真っ直ぐに聞いてくる茜だったが、俺は所長の方を見た。

「悪いけど……いや、いいや。俺らの方が動いとく」
「内緒話?」
「そんなところだ」

 最遠寺に聞かれ、俺は適当に頷くと、茜を接客用のテーブルへと移動させる。
 一応所長は知っているのだが、上田さんもいることだし、何より最遠寺の前で、由羅の話はしたくなかった。どうもあの二人の仲は最悪だからな。


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