「黎明ノ王」カテゴリーアーカイブ

第42話 ドゥーク・ロー・ブライゼン異端裁定⑤

 二人が対峙してより、どれほどの時間がたったのか。
 ブライゼンがこれまでに受けた傷は、大小合わせてかなりの数だ。
 流れ出た血も、もはや相当なものだろう。いかな魔族といえど、立っていられるのが不思議なほどの、重傷だった。
 しかし一方のイリスも、決して無傷ではなかった。
 いや、単純な傷の深さならば、彼よりも酷いものすらある。
 彼女が他人の血でならばともかく、自身の血でここまで己を赤く染めたことは、今までなかったことだ。
 それだけ、ブライゼンは強かった。
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第41話 ドゥーク・ロー・ブライゼン異端裁定④

「愚か者どもめ! このような所まで入り込まれよって……!」

 ベルヌークの罵声も、剣戟の響く中では、決して迫力のあるものではなかった。
 ブライゼンがイリスと刃を交えているころ、彼が放った半数の人形達は、その数を十数人減らされながらも、本陣であるベルヌークの元まで辿り着いていたのだ。
 今まさに、目の前で味方が人形達の刃を防いでいる。
 そのいくら傷つこうとも前進をやめぬ姿は、確かに異様だ。生きているものに為せるものではない。
 間近まで侵入を許したことと、現在の戦況に、ベルヌークは歯噛みしていた。
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第40話 ドゥーク・ロー・ブライゼン異端裁定③

 振りかざされた剣が、ブライゼンの首筋を狙う。
 ギィイイインッ!
 響いた音は、彼女の一撃を受け止めた剣戟ではなく、彼がかざした剣の腹を、刃が滑っていく音。
 それだけで、彼女の剣の軌道は僅かに首筋から逸れた。

「ふんっ!」

 反撃は、左の拳。
 至近距離で鳩尾に拳を叩き込まれ、体重の軽いイリスはあっさりと数メートルを吹き飛んでしまう。
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第39話 ドゥーク・ロー・ブライゼン異端裁定②

 戦いが始まってより、どれほど経過しただろうか。
 乱戦ただならぬ中、指示を出しながらブライゼンはふと思う。
 今が昼ならば、太陽の位置である程度の時間は推し量れる。しかし現在は夜。陽の代わりに月があればいいのだが、生憎今夜の空には厚い雲があり、その姿を探し出すことはできなかった。

「――一人で戦うな。必ず組になって敵を討て!」

 いかに相手の数が多かろうと、一つの場所で戦える人数というのは決まってくる。
 常に誰かと組み、二対一でその場その場で戦わせることによって、今のところ効率良く敵の数を減らすことには成功していた。
 しかし、敵は次から次へと現れ、味方の体力を奪っていく。
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第38話 ドゥーク・ロー・ブライゼン異端裁定①

「ブライゼン様。斥候によりますと、僧会軍の本隊は二手に分かれ、コルントに向けてオルセシスを出発しました」
「そうか」

 そう告げられて、ブライゼンは小さく頷いた。
 報告しに来たのは、古くからラウンデンバーク家に仕えていた、元近衛騎士の者である。ブラフト・ダーン異端裁定で生き残ったものの、ゼルディアへとは向かわず、ブライゼンに付き従っている者は何人かいた。
 彼も、その一人である。

「今日中に対峙することになるな」
「はい。夜半過ぎには、恐らく」
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