「ibisノベル」カテゴリーアーカイブ

第52話 その約束は

「えー……」

 夜になって。
 楓さんと泪さんが帰り、黎も早速日本を発った。それから小一時間ほどして、遊びにいった三人組が帰ってきた。
 衣服が汚れ、少しぼろぼろになった茜の様子を見るに、どうも単純に遊んでいたようでもないけど。
 で、それからしばらくの間、楓さんと泪さんがやってきて、発覚した状況を三人に説明した。
 その中で、黎が一旦日本を離れるという話をした途端、由羅が声を上げたのだった。
続きを読む 第52話 その約束は

第51話 所長の従兄妹

     /真斗

「ただいまー」

 って、俺の家じゃないけど、まあ何となく口をついて出る。
 戻ってきたのはもちろん事務所の方だ。

「真斗。早かったのね」

 こちらを見て、黎は首を傾げた。
 授業も受けてくると思っていたのだろう。
 俺もそのつもりだったけど、結局飯だけで帰ってくることになってしまった。原因は無論、俺の後ろにいる二人であるが。

「おや、お客さんですか?」

 黎と一緒に座っていた上田さんが、俺の後ろの人影を見て尋ねてくる。
 所長の姿はなく、黎と上田さんは何やら相談でもしていたらしい。
続きを読む 第51話 所長の従兄妹

第50話 特訓

     /茜

「ち……っ」

 こちらが放った咒法はあっさりと弾かれたが、それは予想の内だ。
 あくまで隙をうかがうためのもの。

「ふん!」

 疾風のごとく、ハルバードが振るわれる。
 かわし、背後に回る。
 相手はこちらの姿を捉えてはいたが、身体そのものは私に背を向けてしまっている。
 僅かではあるが、こちらの方に時間的猶予が生まれる。
 好機!

「はあああああっ!!」

 ずっと溜めていた力を解放する。
 右手よりあふれ出た黒い炎を束ね、剣として振り下ろす。
 手加減など無しだ。

「やっときたわね――」

 そいつはにやりと笑うと、大斧を持っていない左手を掲げた。
 そこから溢れるのは、私が放つものと全く同じ炎。

「〝ゼル・ゼデスの魔炎〟!」
続きを読む 第50話 特訓

第49話 とある来訪

     /真斗

「何よそれ!」

 案の定、由羅は怒った。
 朝になり、茜が戻ってくるのを待って、昨夜のことをざっと皆に説明したところで、一番に声を上げたのが由羅だったわけである。
 事務所にいるのは、俺と由羅に、黎と茜、そしてイリスと所長である。

「茜、別に何も悪いことしないのに!」
「落ち着けって」
「そんなの無理に決まってるじゃない! ねえイリス!?」

 俺がなだめたところで、焼け石に水だったようだ。
 一方、ずっと黙したままのイリスは、由羅とは対照的に静かだった。
 きっと夜のうちに、茜からだいたいの事情は聞いていたのだろう。
 しかしその表情は、明らかにいつもと違う。
 そんなイリスが、ぽつりと茜へと尋ねていた。

「わたしの……せい?」
続きを読む 第49話 とある来訪

第48話 前門の虎、後門の狼

     /茜

 多勢に無勢。
 それは認めるしかなかった。
 しかも相手は精鋭だ。
 それを相手に真斗はよくやっていると思う。
 ならば私は、この男を――

「その程度か。拍子抜けよ!」

 ザインが右手を掲げる。

「――〝ジィオ・ラグルア〟!」

 打ち下ろされる、雷撃の咒。

「――はあっ……!」

 避けたりなどしない。
 真正面から押し退ける。

「――〝スィークティアスの光〟よ!」

 溢れた光が、雷撃を呑み込み、溢れて弾ける。

「ぬう……!」

 放ったのは、第三層における最も高等な咒法だ。
 ザインの咒法にある程度相殺されたとはいえ、残った威力はザインを吹き飛ばすに充分だった。
 すかさず追い討ちをかける!

「さすがにやるな……。よく学んでいるようだ」
「!」

 私の予想を遥かに下回るダメージしか受けていなかったザインは、即座に反撃に出た。
 ぶつかり合う。

「ぐ……っ!」

 すれ違い様に、お互いが放った一撃は、それぞれを確実に捉えていた。
 私は踏みとどまり、背後へと振り返る。
 一瞬たりとも隙は見せられない。
 そのまま構えようとして、危うく倒れそうになった。
 膝が笑い、力が抜けそうになったからだ。

「ふむ……。やはりさすがであると、言うべきか」

 ザインは表情も崩さぬまま、平然と腕に突き刺さった短剣を抜き放った。
 出血など構わずに、無造作に短剣を放り捨てる。

「しかし、今の判断はどうかな。狙い通り心臓に突き刺していれば、あるいはこの命は奪えたかも知れぬ。とはいえ狙いを変えねば、その身は砕けていたか」
「…………」
続きを読む 第48話 前門の虎、後門の狼